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東京高等裁判所 昭和55年(行ケ)168号 判決

原告主張の審決取消事由の有無について検討する。

1 1の主張について

(一) 成立に争いのない甲第二号証によると、引用公報の明細書部分中「図面の簡単な説明」欄には、第二図、第三図及び第五図について、それぞれ原告主張のとおりの説明記載があることが認められ、したがつて、審決が右各図について、それらがいかなる図面であるかを説示したところと、具体的表現において若干の差異がある。しかし、引用公報の右記載と右各図面とを併せ検討すると、両者のいわんとするところは、実質的に同一であつて、審決が右のとおり説示した点には誤りがない。

(二) 原告は、引用例中の第二図について、3(縦桟)のうち、6(ビニール膜)の下方に位置する部分が実線で示されていないことなどを理由に右6が不透明のものであると断定したうえ、このことを前提として、同第二図と第三図との間に矛盾があり、また、第三図からは遠近関係が不明である旨主張する。

しかし、前掲甲第二号証によると、引用公報中には、ビニール膜6が透明のものである旨の直接の記載はないが、引用公報に記載の考案が、温室におけるビニール膜の定着装置に係るものであることからみて、これに用いられるビニール膜は透明のものの存することは極めて当然であるところ、第二図は、右(一)に述べたとおり、「ビニール膜の被覆された要部の一部斜面図」であるから、3(縦桟)、6(ビニール膜)、7(係止線条)など同図に示された各部材の相互の位置関係、嵌合状況などを最も分りやすいように写実的に表現記載したものと解され(殊に、このことは、ビニール膜に陰影が施されていることなどからも明らかである。)、その場合、ビニール膜が透明のものであつても、表面における反射光によりその背後にあるものすなわち右図においては3(縦桟)の一部が透視できない場合のありうることは明らかであり、仮にそうでなくとも、同図が右のような目的で描かれていることからみて、各部材の相互の位置関係を明らかにするのに、3(縦桟)のすべてを実線で描くことが、かえつて、これを不分明にするため、実質をうかがわせうる限度で簡明に表示することも許されることである。

そうしてみると、第二図において、3(縦桟)の一部が、実線で描かれていないからといつて、そのことだけで、ビニール膜が不透明のものであると断定し、それを理由に、第三図との間に矛盾点があるとか、第三図の遠近関係が不明であるなどとする原告の主張は、到底採用できない。

そして、前掲甲第二号証によれば、本件意匠は「シート地用押え材」についてのものであり、シート地の種類については、何の限定もないことが明らかであるところ、引用例についても、ビニール膜(シート地)の定着装置の態様は、本件意匠との対比に関する限り、十分明らかであり、一個の意匠を認定する妨げとなるような特段の矛盾又は不明の点は見当らず、審決が引用例から、審決に掲記のような意匠を認定した点に誤りはない。また、原告が挙示する判決は、本件と事案を異にし適切でない。

2 2の主張について

成立に争いのない甲第三号証によると、本件意匠が、原告の主張するとおり、長手方向に真直ぐに連続する一定形状の棒状体であり、底面は無模様で、かつ、外形線以外に形状線が表われない平坦面で長手方向に連続するものであることが認められる。一方、前掲甲第二号証によると、引用例すなわち引用公報中の第二、第三、第五の各図と関係記事から認められる意匠もまた、本件意匠と同様、長手方向に真直ぐに長く連続する形態のものであることは明らかである。原告は、引用例に示された意匠は、引用公報における第六図に示されたもののように屈曲又は湾曲しているものと解する余地があると主張するが、前述のとおり引用例には明らかに長手方向に真直ぐ連続しているものが示されているのであつて、意匠としての観点からみる限り、右第六図に記載されたものは、引用例のものとは別個の意匠とみるべきであり、審決も同図を引用しているわけではないから、原告の右主張は採用できない。

原告はまた、引用例に記載の意匠は、定着装置として「ボルトナツト止」が必要不可欠のものであり、その点で本件意匠と異なる旨主張する。なるほど、前掲甲第二号証によると、引用公報の第一図、第六図には、そのようなものが示されており、これら図面と同公報の明細書部分とを併せ考えると、同公報記載の実用新案登録請求に係る「大型温室におけるビニール膜の定着装置」なる考案としては、右のような固着装置もまたこの考案に含まれるとしても、本件では、本件意匠と対比する限度において、刊行物たる引用公報中の引用例の意匠が問題とされているにすぎず、したがつて、第一図、第六図のものは、別個の意匠と解すべく、審決も、右両図のものを引用しているわけではないから、原告の右主張も採用の限りでない。

なお、前掲甲第二号証、第三号証を検討するに、本件意匠が引用例から認められる意匠と類似することは、審決の説示するとおりであり、審決のこの点についての判断にも誤りはない。

よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとする。

〔編註その一〕 本件における請求原因は左のとおりである。

一 特許庁における手続の経緯

原告は、意匠に係る物品を「シート地用押え材」とする別紙(一)(〔編註〕省略)に記載のとおりの構成からなる登録第五〇八九七〇号意匠(昭和五一年四月七日意匠登録出願、昭和五四年五月一八日登録、以下「本件意匠」という。)の意匠権者である。被告は、昭和五四年一一月一六日、特許庁に対し、本件意匠の登録無効の審判を請求し、同庁昭和五四年審判第一三八〇八号事件として審理されたが、昭和五五年五月二日本件意匠の登録を無効とする旨の審決があり、右審決の謄本は、同月二一日原告に送達された。

二 審決の理由の要点

1 本件意匠の意匠に係る物品、出願日、登録日は前項に記載のとおりである。

2 本件意匠の要旨は、シート支持体、スプリングからなり、それらは長手方向に連続する一定形状の棒状体であり、シート支持体(以下「支持体」という。)は、ハツト形鋼状において、その鍔及び側板に当る部分を、左右対称として中央に向け傾斜曲折させた態様から成り、支持体を長手方向の直交端面からみると、支持体の底部をほぼ水平とし、その左右両端で前記のように側板部として弧状で曲折させ、側板部の高さは底部の<省略>強であり、その側板部の頂部から鍔部に当る部分を更に下外側へ、短く弧状で小さく曲折させており、その曲折した内側は、小円の空洞状となつており、次に、支持体のなか(底部付近)へ、一本の細丸棒を長手方向に天地が交互に繰り返される同一なほぼ台形に屈折形成(台形の波形)したスプリングを嵌合しているものである。

3 これに対し、実用新案出願公告昭四八―三七七一五号実用新案公報(昭和四五年八月一四日実用新案登録出願、昭和四八年一一月九日出願公告、以下「引用公報」という。)は、「大型温室におけるビニール膜の定着装置」であり、その第二、第三、第五の各図と関係記事(以下、右各図と関係記事を合わせて「引用例」という。)によると、その意匠(形態)は、シートの支持体、スプリングからなり、それらは長手方向に一定形状の長い棒状体であり、シートの支持体(以下「支持体」という。)は、ハツト形鋼状において、その鍔及び側板に当る部分を左右対称として、中央に向け傾斜曲折させた態様からなり、支持体を長手方向の直交端面からみると、支持体は、底部をほぼ水平とし、その左右両端で前記のように側板部として弧状で曲折させ、側板部の高さは底部の<省略>強であり、その側板部の頂部から鍔部に当る部分を更に下外側へ、短く弧状で小さく曲折させており、その曲折した内側は、ほぼ小円の溝状を形成しており、次に、支持体のなか(底部)へ一本の細丸棒を、長手方向に天地が交互に繰返される同一台形に屈折形成(台形の波形)したスプリングを嵌合しているものである。

4 そこで、両意匠を比較検討すると、両者は、同種の物品であり、支持体、スプリング共にほぼ共通することは前記のとおりであつて、これらの点は顕著な共通感がある。差異点としては、比率や頂部の下外がわへの小さな曲折が、空洞状か、溝状かの点などがあげられるが、空洞状か溝状かの点は、共に小円状かほぼ小円であることでは共通しており、比率の差も、支持体を長い棒状体(長尺もの)の全体としてみるとき、いずれも共通点中に含まれた微細なものである。以上のとおりであり、両者の共通点、差異点を総合して全体として比較観察するとき、両意匠は、前記のような微細な差異点があつても、共通点の方が勝つているので、本件意匠は、引用例に記載の意匠と互いに類似するものとするのが相当である。

5 なお、引用例中の第二図は、ビニール膜を被覆(挿入)した斜め上方よりみた形態を表わし、同第三図は、第二図を上面からみた形態を表わし、同第五図は、スプリングの形態を表わしているものである。そして、これらの各図は、その描き方がやや不揃いで精密さを欠く点はあつても、その具体的形態を理解把握し、特定できる一意匠と認められる。

6 したがつて、本件意匠は、意匠法第三条第一項第三号の規定に該当する意匠であり、同条柱書の規定に違反して登録されたものであるから、その登録は無効とすべきものである。

三 審決の取消事由

1 引用例からは、一個の意匠を客観的に確定できないのに、審決は、これより一個の意匠を確定した点で誤つており、取消されるべきである。

(一) まず、引用公報中の「図面の簡単な説明」の欄には、その第二図については「要部の一部斜面図」と、第三図については「縦桟に係止線条を嵌着したる時の上面図」と、第五図については「係止線の一部上面図」とそれぞれ記載されており、審決が請求の原因二の5のとおり右各図について認定説示したところと正確には一致しておらず、明細書の他の記載を見ても審決の右認定を首肯できる明確な根拠がない。

(二) 次に、引用例中の第二図、第三図、第五図については、次のような矛盾又は不明の点がある。

すなわち、第二図中に6で示されるものは、3で示されるものの上位に位置し、かつ、不透明なものとして表現されている(透明であれば、同図中3で示されたものがすべて実線で示されているはずである。)。これに対し、第三図中に3と6で示されるものについては、両者の遠近関係が不明である。例えば、6のものが紙面の手前側に位置するときは、当然、その形状線(特に下位の水平方向の形状線)は3のものの上を横断する線として表現されて然るべきところ、同形状線は3の外形線と交わる位置で跡絶えている。そして、前記のように6のものが3のものより紙面の手前側に位置するときは、第二図との関係上、3の形状線のほとんど全部が破線で表現されて然るべきところ(右のとおり6のものが不透明であるから)、第三図中3の形状線はすべて実線で表現されているので、これら二点がそれぞれ矛盾し、この点において第二図及び第三図に表現された形態の共通性を認めえない。また、第二図中に7で示されたものにおける隠れた部分の形態は不明であり、仮にその隠れた部分の形態が台形の一部をなすものと推定しても、7のものは、単に一山相当についての表現がされているにすぎず、第三図中に7で示された、同一台形に屈曲形成(台形の波形)したものとの共通性を認め難い。

(三) 本件のように数個の図面から意匠を認定する場合には、右各図面の内容は、厳に矛盾なく、かつ、一点の不明もなく表現されているべきであつて、そのいずれかを重視し他を無視して認定することはできず、互いに反する内容のものがあるときや不明の部分があるときには、引用意匠を客観的に確定することができない(東京高裁昭和四三年(行ケ)第五号事件昭和四八年三月六日判決、同庁昭和五二年(行ケ)第九三号事件昭和五三年三月二九日判決参照)。

(四) そうしてみると、引用例中の第二図、第三図、第五図に示されたものは、審決がいうように、その描き方がやや不揃いで精密さを欠く程度のものではなく、具体的形態を客観的に明確に把握できないのに、審決は、不明な点や矛盾する点について推定思考を働かせて、別異の第三の意匠を想定したものであつて、このようなものは、意匠法第三条第一項第一号にいう「公然知られた意匠」又は、同第二号にいう「刊行物に記載された意匠」ということはできない。

2 仮に、1の主張が認められず、引用例から一個の意匠が認定できるとしても、審決は、これと本件意匠との類否判断を誤つており、取消されるべきである。

本件意匠における「長手方向に連続する一定形状の棒状体」の具体的内容は、その正面図、底面図から明らかなように、長手方向に真直ぐに連続する一定形状の棒状体であり、底面は無模様で、かつ、外形線以外に一切の形状線が表われない平坦面で長手方向に連続するものである。これに対し、引用公報に記載の意匠は、長手方向に真直ぐに連続するものかどうかは、第二図、第三図が余りにも短かすぎ、また、その表現が悪いために明らかでなく、例えば、引用公報中の第六図に示されたもののように屈曲又は湾曲したものであると解する余地がある。しかも、右意匠は、無模様で、かつ、外形線以外に一切の形状線が表われない平坦面で長手方向に連続するものかどうか全く不明である。更に、右意匠は、ビニール膜の定着装置として「ボルトナツト止」が必要不可欠の事項と認められ、第一図には、その底面にボルトが突出しており、したがつて、ボルトを挿通させるボルト孔が予め設けられている。

このように、両意匠は、その要部である「長手方向に連続する一定形状の棒状体」の具体的態様に差異があり、また、ボルトもしくはボルト孔の有無にも差異があることからすると、これに接する者が共通感を抱くものとはいえず、したがつて、本件意匠と引用例に記載の意匠とは互に類似するということはできない。

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